京都大学大学院医学研究科クリニカルアナトミーラボ

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カダバートレーニングを終えて 【心臓血管外科】

2024年2月18日参加

心臓血管外科 赤熊悠生

 

 初めに、今回の実習のために御献体下さった白菊会の皆様とそのご遺族の方々に、心より感謝申し上げます。

 私は心臓血管外科医を志し、初期研修後に京大病院で研修しております。心臓血管手術はその一挙一動が命に直結しており、実際の手術で技術を実践して学ぶということは、容易ではありません。最近では合成樹脂やゴムを利用した心臓模型があり、ある程度は現実に即した練習も可能となっております。しかし、人体の精密さは、以前に比べて精度が増したと言えども、模型では再現できないものであり、我々外科を志す学徒にとって、より現実的な経験をご遺体を通して得られることは、本当に貴重です。このカダバートレーニングは、日本全国で広まりつつあり、京都大学でも数年前から開始されていると聞いております。

 2024年2月に、そのカダバートレーニングに初めて参加させていただきました。胸部の解剖のレクチャーの後、心臓血管外科手術の基礎である、胸骨正中切開、人工心肺設置、大動脈弁置換術、僧帽弁置換術、冠動脈バイパス術のそれぞれを、ご遺体を用いて行わせていただきました。大動脈弁置換術における大動脈弁輪への糸掛での針の角度、結紮の方向など、手術はこれまで助手の立場から何度も見ているはずなのに、実際に自分でやろうとすると指導医の先生のようには容易に出来るわけではありませんでした。ご遺体の心臓であるからこそ、実臨床に即した経験を積むことが出来、初めて体感できることの多さに驚いた次第です。冠動脈バイパス術の吻合も、ゴム製の人工血管とご遺体の血管とは様々な意味で全く異なり、充分模型で練習したつもりではありましたが、あまりの違いに愕然といたしました。このように、特に私のような若手外科医にとって、実臨床に近い形で多くの経験を積むことができるのは、カダバートレーニングでしかできないことであり、短い時間ではありましたが、多くの学びを実感した時間を過ごすことができました。また、現実の心臓大血管手術の術中は非常に緊迫する場面が多く、詳細な説明を受ける機会も限られますが、カダバートレーニング中には正常解剖や、手技のコツなどを、指導医の先生方から手取り足取り時間をかけて教えていただくことができ、心臓血管手術への理解もより深まりました。今回のカダバートレーニングで得た学びを今後の日常診療に活かし、これから出会う患者さんへ還元できることを願いつつ、ひとかどの外科医になるべく全力で引き続き修練していくつもりです。

 最後にはなりますが、当日ご案内いただいたスタッフの方はじめカダバートレーニングの機会を提供してくださった方々、そして何より献体くださった方々及びその御遺族に繰り返し心より感謝を申し上げます。また、これからもカダバートレーニングを通じて多くの医師・学生が成長し、より多くの患者様が救われますことを祈念いたします